ファウンテンリングが目指すもの
モダンなかたちは、実は噴水を作り出すデザイン
バタフライリングに流水をあてると、手の甲に水膜の羽が優雅にはばたきます。また、スパイダーリングに流水をあてると、四方八方に長い脚が弧を描きます。ファウンテンリングは私たちに水の楽しさと不思議さを実感させてくれます。アートの発想と流体の美学がみずみずしく指先を飾ります。
噴水の持続可能性
古来、噴水は富と贅沢の象徴でしたが、東日本大震災以降、多くの噴水が停止しました。涼感が欲しい真夏に、水が止められ、無骨な出水パイプが飛び出した噴水はものがなしい印象を与えました。しかし、世界に目を向ければ、水が無くても人気を博している噴水があります。スペインのアルハンブラ宮殿にあるライオンの噴水や、グエル公園のトカゲの噴水は、彫刻そのものがフォトジェニックなので、記念撮影する観光客者が後を絶ちません。また、フランスのルイ14世は、ベルサイユ宮殿にゲストを迎えたときだけ噴水を放水しました。現在でも夏に噴水ショーが開催されますが、冬は稼働を停止しています。省エネと節水と維持費用を踏まえると、噴水には新しいデザインが必要ではないでしょうか。
2016年夏、私のもとに美大の恩師であった斎藤嘉博先生より手紙が届きました。学生時代より、私の噴水制作をずっと見守って下さった先生です。「京都の禅寺には水のない枯山水がたくさんあり、天龍寺には水のない枯れ滝があるんですから、水のない枯れ噴水というのはどうでしょう」と書いてありました。ずいぶん面白くも難しいリクエストを出すものだと思ったのですが、ファウンテンリングは、まさにこの問いに対する答えになると思いました。日本の枯山水の庭園は、水を用いずとも私たちに水を想起させます。同様に、ファウンテンリングを見ると、その仕組みを知っている人は、指輪の突起から特定の噴水を思い描くことができます。私は、ファウンテンリングをアクセサリーとしても美しく見えるようにデザインしました。つまり、水をあてない時も楽しめる設計です。箱にしまっておいて時々出して眺めても良し、必要な時に身に付けて噴水を作っても良し。ファウンテンリングが今後の噴水文化の発展に一石を投じることが出来れば幸いです。
よくあるご質問
Q. 子供に与えても大丈夫ですか?
A. いいえ。この指輪は玩具ではありません。いずれは柔らかい素材を用いて子供用の指輪の開発を検討していますが、これは大人向けのシルバージュエリーです。鋭利なスタッズがついたファッションと同様に、子供の手の届かない場所で扱う必要があります。ご注意してお取り扱い下さい。
Q. この指輪で遊ぶと水を無駄遣いしそうですが?
A. ファウンテンリングの目的は水を消費することではなく、水の重要性を再確認することです。逆説的ですが、噴水のオーナーになると、水を流しっぱなしにする代わりに、手を洗う際に楽しんだり、お風呂やプールでじょうろを使ったり、節水を工夫したくなります。これは噴水オーナーの発想です。私はファウンテンリングを通して、水の使い方を再考するきっかけを作りたいと思っています。
Q. 家のキッチンやお風呂場でもファウンテンリングで噴水が作れますか?
A. 水道を観察して下さい。一定の太さの透明な流水(層流)であれば、噴水の制作に適しています。透明でもねじれた流水であったり、気泡を含む白い流水(乱流)では、ファウンテンリングにあたった水が激しく飛び散るので、蝶やクモの形をうまく作ることは出来ません。家や出かけた先で蛇口を観察してみて、噴水の蝶やクモが生息できそうな、クリアな流水を見つけてみてください。